K写実洋画コンクール 展示会

2020年結果発表

[最優秀賞作品]

ぬいぐるみの金魚とクレパスで描かれた金魚たち

題名「ぬいぐるみの金魚とクレパスで
描かれた金魚たち」
氏名:廣岡元紀
M20

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

ぬいぐるみの金魚とクレパスと描かれた金魚を構成し配置して作品にしています。今回の応募作品の中でもコンセプトといい二次元の物と三次元の物を描き分ける技量といい群を抜いていると思います。一番立体的な物が金魚のぬいぐるみなので、実に平面的な作品です。この作品を制作する上で大切な所は、モティーフはもちろんですが、その陰の部分が同じくらい重要です。この作品が、よりリアリティを上げるためには、陰のトーンを丁寧に描くと更に良くなります。陰が自然でないため、惜しい作品だなと思います。

島村信之

島村信之先生よりコメント

この度は、K写実洋画コンクールにご出品くださりありがとうございます。 廣岡さんのご出品された作品は2点とも、ほのぼのとした可愛らしいモチーフで構成されていて、 シンプルですがものの配置等丹念に考えられています。受賞作は金魚のぬいぐるみをクレパスで描いた絵を、丸ごと俯瞰した視点で描いたもの。新鮮で現代的な感じが致しました。支持体自体が 作品内でも画用紙?(支持体)というのがすごいですね。筆致にも味があって、余計にほんわかとした雰囲気になっているのは作者の狙いだったのでしょうか?現物がいつか見れたらと思いま した。写実系絵画を描く方々の多くがテーマが被っているかと思う昨今、新鮮な発想を提示できる作家は意外と少ないと思います。描写の実力勝負も悪くはないですが、発想こそ大事であること を示してくれた作品だと思います。

[優秀賞]

作品名

題名「埋もれた時針」
氏名:金子貴富
F10

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

時計の機械の下に砂に埋もれた時計の針の部分がささっている。時の経過により崩壊していく様を丁寧に描いていますね。誠実な描写は好感が持てます。この作品は、キャンバスに油絵具とテンペラで描かれていますが、描写の部分をテンペラで描いている様に見えます。残念ながら支持体のキャンバスのテクスチャーが邪魔になり、せっかくの描写が質感に変わっていません。金属質の物や砂のような鉱物の場合、キャンバスの布目をそのままにしない方がよいでしょう。パネルですので、綿布で石膏地での支持体か、油絵具での盛り上げか、練り込みテンペラなどでマチエールをつけると描画が生きてくるとおもいます。写実絵画は細かく描くだけでなく質感を大切にします。新しいテクニックにチャレンジしてみても良いかもしれませんね。

島村信之

島村信之先生よりコメント

今回の作品「埋もれた時針」はなかなか面白い構成で、このようなモチーフを駆使した独特の世界観は絵画として魅力的な題材だと思います。時計内部の歯車なのでしょうか、「文明」と自然や風化を暗示させる「砂」を上下で配した対比は時間を刻む時計だけに何か切なさがあって、目の付け所の良さを感じました。この同じモチーフを使って、まだまだ魅力ある構成が展開できそうだと思いました。金子さんはまだデッサン力が弱いところがありますので、その点の強化を期待いたします。今回の作品では影の色が不自然に感じるのは、その周囲のものの反射光の意識が弱いのかもしれませんので、例えば白い壁などで赤や緑のものにできる影の違いを確認して見ると、色は相互の関係で成り立っていることがよくわかりますよ。

[奨励賞]

作品名

題名「大桑の景色」
氏名:河原裕
F10

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

牧歌的な雰囲気で、写真ではなくこの現場で写生したのだろうなと思わせる作品です。湿度のある空気を感じられ個人的には、部屋に飾りたいと思う作品です。リアリズムのという言葉の語源のリアルは現実を意味します。現実を表すという立ち位置で表現を考えれば、個人的現実も含まれ範疇は抽象絵画まで広がりますが「現実を写す」という写実絵画は、視覚を含めた五感を、フル活用し形を変えた真実の追求に他なりません。写生には、ドキュメンタリーの意味合いがありますが、感覚的に仕事をしてしまいがちです。この作品を更に発展するには、曖昧さを排除して視覚的現実、空間的現実、存在的現実などを表現しようとする厳しさも必要でしょう。表現方法を考えることも創造行為の一つだとおもいます。感覚的でなく、タッチの一筆一筆を考えながら描くと、もっと良くなると思います。

島村信之

島村信之先生よりコメント

いつもご出品くださり、ありがとうございます。今回の審査のやり方がモニター越しの画像での判断でしたので、河原さんの作品の魅力を正しく判断できたかは疑問が残りますが、作品画像をそれぞれ長い時間入念に見させていただきました。今回の風景画は私自身がこれまで器用で上手い写実作品をたくさん見て来たので、初見、不器用で野暮ったさが正直なところ目につきました。一見荒く、筆致も未熟な印象を持ちます。しかし、観ているうちにまたもやだんだん良い印象に変わりだすのです。色使い、空間の捉え方がよくできていて、日本の牧歌的な情景を、臨場感が漂うまで描き切ろうとしているのがひしひしと伝わって来ました。河原さんの作品は、筆致の不器用さを差し引いても、絵画(特に写実絵画)の土台や心得ができているように感じました。若干気になった点は、現物ではその印象が変わるかもしれませんが、空の色がオイル焼けしたようにややくすんで見えるところです。冒頭でも書きましたが、もし、出品作品を並べての審査ができていたなら、河原作品の評価はもっと良い方に変わっていた可能性があります。

作品名

題名「延線作業完了」
氏名:福地敬法
P20

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

延線を作業している作業員が作業終了後に一服している様子の絵です。スナップ写真のようですね。おそらく、写真を使っての制作だと思いますが、全体的に色の感覚が良い上に水面に映った空の色や車のボディーの色など自然体での観察は臨場感があり好感が持てます。この絵の問題点は、構造的な理解や空間意識が欠けていることですね。(車の助手席の扉は開いているのにそのように見えませんね。また、その下のタイヤの楕円も歪んでいる様に見えます。)自然体で描けるあなたには、基礎的なデッサン力を身につけることをお勧めします。プロポーションのみならず、空間意識は写実絵画の基礎です。形の違和感も気が付くようになります。新しい作品を見てみたいと思いました。

島村信之

島村信之先生よりコメント

今回の応募作品の中では福地さんの描画能力は最も高いと思いました。ですが作品内容が写真を起こしたような印象を受けてしまいました。私は写真や画像を見て作品を描くことにはなんのわだかまりもなく上手く使うべき資料だと思いますが、それらを利用しても、 絵画にするためのアプローチをすることが重要だと考えています。作品を観る側にとっても描かれた現場が、なぜ絵画としてこのポイントを舞台にしているのか伝わるものがあれば良いのですが、そこが私には読み取ることができませんでした。福地さんの作品は、細密に寄らずとも形や質感を的確に表現できるとても描画センスの良い巧さを感じます。それだけに作家自身の視点の魅力をもう少し伝えていただけたらと惜しまれるものがありました。

[佳作]

作品名

題名「藤」
氏名:富山智恵美
M20

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

藤の花を品良く描かれています。構図もバランスよく配置されて治まりも良く、花の一つ一つを丁寧に描いて誠実な仕事だと思います。富山さんの作品は、今回で3回目ですが、やはり絵を知っている方の作品ですね。今回の作品は「藤」という和風な花であることと背景の処理などから、日本画のように見えますね。根気よく丁寧な仕事なのですが少し平面的な感じもします。油絵具の素材の持つ透明性や物質感などを活かされてないようにも思います。富山さんはもっと描ける方ですので、この作品はここからもう一枚描くぐらいのつもりで空間的な位置関係と物質感が出るまで描きあげて欲しいと思っています。先日、野田弘志先生が「写実絵画は真実の追求」と言われていました。写実絵画は「視覚的にはもちろんすべての感覚を使い必死になって観察して作品を描いていく」というどこか修行的性質があります。写実絵画のもっと深い精神的世界を富山さんには味わってほしいと思います。

島村信之

島村信之先生よりコメント

いつもご出品いただきありがとうございます。今回の審査の形が、作品の画像をパソコンのモニター越しで確認するというやり方ですので、皆さんの作品の持つスケール感を体感できず、クオリティーの見極めにおいても難しいところがあったかもしれません。と、前置きをさせていただいた上で富山さんの作品の感想を述べさせていただきます。今回の作品「藤」は、藤という花自体の持つ造形からくる見応えもあって、とても美しく華やかで格好の良い作品だと思います。背景にイエロー系を配しましたが、ベストチョイスとは言えませんが、第一回の出品作に比べると違和感を抱かずに見ることができました。構図は悪くはありませんが若干収まりが良すぎる感はあるかもしれません。富山さんはこのコンクールでは実力者で、もっと出来るのでは?という期待があって、あえて厳しく言わせていただいています。最も気になる点は、油絵にしては「軽い」、あるいは「実態が弱い」という印象を持ちます。これは「技法」から来るところと「考え方」から来るところがあるように思います。前者は描画の行程が、仕上げに持ち込むのが早すぎる点が考えられます。もっと背景になじませながら、重ねた色のズレも取り込んで、固有色を段階を追って作り上げていくという描画行程です。形を捉える技術は優れているのですが、固有色をダイレクトに塗り収めてしまうので、若干生っぽさがあります。何色か重ねた結果で作られた色という意識がもっとあると良いと思います。それと、後者の「考え方」ですが、例えば「綺麗な色」の解釈です。藤の色を引き立てるのに、補色を背景に使うと確かに主役は鮮やかに見えて来て、一段と色彩が映えると思いますが、彩度の加減はあっても俗っぽさを同時に引き起こします。ですから、今回の作品も微妙なところですが、一見綺麗な配色に見えながら、ともすると実在感が薄くなり、安っぽい配色と捉える見方もでてきます。色彩には個人の好みがあり、私の指摘した件が大勢的かは言い切れませんが、私の経験から来る考え方になります。この配色でも、モチーフと背景とのやりとりをもっと踏み込んで描く、例えば背景と同じ調子の色をこの描かれたものの全面に塗り、もう一度描き起こしていくと言う行程があるだけでもかなり良くなると思います。富山さんの作品は、いつも惜しいなと思い、他の方のコメントの2、3倍長く書かせていただきました。何卒、言い過ぎましたことをご容赦ください。

[入選]

作品名

題名「Afterglow」
氏名:津島博行
F20

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

廃屋の中の崩壊するベンチを描いています。強い陽射しの中のベンチは、存在感のあるマチエールで描かれており、時の流れも感じさせる作品ですね。個人的には好感が持てる作品です。惜しいのは植物の表現です。全体の緑の色や形がやや単調ですね。ベンチの表現に比べて観察も描画もあっさりしているように見えます。緑の中の情景ですので全体が緑になってしまうのは仕方ない事ですが、同じ緑の中に空間的な意識が芽生えてくると画面の中に秩序が生まれてきますので、色や描画方法を考えるようになってきます。制作の構想を練るときに、主役と脇役の関係と空間を考えながら絵を制作していきましょう。

島村信之

島村信之先生よりコメント

この度はK写実洋画コンクールにご参加下さり、誠にありがとうございます。津島さんの作品はテーマも良く、絵の具がしっかりと塗り込められて深い味わいがあります。ベンチを照らす陽光も感じられ、緑が基調の色彩もとても豊かな生き生きした作品だと思います。ただ、私が気になる点は植物達の表情が少し重くて、更にそれぞれが目立ってしまっているために、なにか全体が賑やか過ぎる印象を受けました。魅せるべきポイントが散漫になっているようで惜しいです。ピンクの花が程よいアクセントで画面の色彩に張りを持たせる効果があっていいですね。作品制作に対する情熱が伝わってきました。賞候補でした。

作品名

題名「秋霖」
氏名:谷口明美
F20

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

女性が船上で気持ちよく風を受けている様子を描いたものですね。景色の解放感と共に一瞬の心地よさを絵にしたかったことが伝わってきます。気持ちの良い一瞬を描きたかったという気持ちは理解できますが、この作品は、写実絵画というよりは、写真を使って絵を描かれたスナップ写真のようにみえます。写実絵画の世界では、写真を使っての絵画制作はよくある事ですが、その行為の先に、「なぜ写真を使ったのか」ということが問われます。「どうして絵画にしたのか?」この事が重要視されるわけです。写実絵画は視覚的のみならず「あらゆる感覚を総動員して制作する」という意味で、真実の追求だと思うのです。この作品を入口にして、写実絵画の世界の奥深さを知っていただけたらと思いました。

島村信之

島村信之先生よりコメント

この度は、K写実洋画コンクールにご出品くださり誠にありがとうございます。作品はどんよりとした天候の中、船上サイドで心地よい風を受けているすがすがしい表情の女性の姿を捉えた場面。絵になる写真(画像)を選んで描いたのでしょうか。実はそれをしっかり絵画として昇華させることは難しく、スナップ写真を描いた絵という枠が外れません。もっとも構図による見せ方や効果的な演出等の操作、作り込みがあれば絵画の領域になってくるのだと思います。たとえ作品の画力がかなり高くても丸々高評価を得るのは難しいと思います。作品のモデルの左手指の見え方は少し不自然なので気になりました。また、肌の色も少し軽い(単純)ように感じます。背景の街の表現や人物、船内の描き方は上手く収っていますし、デッサンの目立つ狂いも感じられませんので、画力はあると思います。残念ながら今回はスナップ写真感が強く、評価しづらいところがありました。

作品名

題名「春の陽射し」
氏名:松林卓
M20

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

晴れ渡った青空に桜を大きめに一枚一枚丁寧に描いています。沢山の花を根気よく描かれている様子は好感が持てます。春の暖かな陽射しを描こうとした事は伝わります。しかしこの作品はよく描いているのですが、花びらが白黒のデッサンのようで、花や枝に色味があまりありませんね。私も桜を描くことは多いのですが、桜は花びらの根元から枝にかけて赤色系の色があり、花びらも(桜の種類にもよりますが)白に近い薄いピンクの色味があるように思います。今一度、形だけでなく色も興味を持って見つめてほしいと思います。また、私は花には花のオーラのようなものがあると思います。写真を使うこともあるとは思いますが、視覚情報だけでなく五感の全てを使って、モティーフを感じ取ってください。

島村信之

島村信之先生よりコメント

この度は、ご出品いただき誠にありがとうございます。桜の花を20号サイズに拡大した松林さんの作品は、今回現物を見ずに審査するとの異例の状況でしたので、パソコンからのモニター画像での判断ではスケール感が得られない点で不利であった可能性もあるのですが、モニター越しの凝縮した状態ですと、一見写真のようなリアルな作品です。私も今年の春に、写真撮影が趣味の娘と一緒に咲き誇る桜の写真をたくさんカメラで写しました。まさにこのような青空に美しく映える淡い桜の色彩はすばらしいものでした。枝や茎の緑、雄しべの黄色もあって、その桜の色や形の造形美を追った視点はとても良いと思います。美しい作品なのですが、写実絵画は「写真で良いのでは?」という領域を超えて、存在論や情緒的思考の働きかけを画面に盛り込まなければ、作品として弱いように思います。描画レベルもまだ伸び代が期待されますので、ここからが勝負なのだと思いました。構図も悪くはありませんが、まだ桜のセンスの良い美しい見せ方はあると思います。日本人として桜をテーマに描いたことは、とても良いことだと思います。もう一歩の踏み込みを期待いたします。

作品名

題名「鹿と玩具の林檎」
氏名:廣岡元紀
M15

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

鹿の人形と玩具の林檎を画面上に配置しています。林檎の質感がプラスチックで製造過程によって出るバリの部分まで描いています。筆力のある人である事がわかりますが、この作品も陰の部分が甘く、床の部分と林檎の関係が曖昧です。更に鹿と林檎それぞれの陰の長さ、方向が均一ではないために光がどちらから当たっているのかわからなくなっています。陰の向きを統一すると良いでしょう。また、林檎の質感はわかりますが、鹿の質感が今一つわかりにくいので(モチィーフの選択という意味で)これも惜しい作品です。

島村信之

島村信之先生よりコメント

廣岡さんのこちらの作品は、とてもシンプルながら個々のモチーフの置き方でそれぞれに表情が感じられ、楽しさと愛らしさで鑑賞者を癒やしに導くような内容ですね。赤と黒と白色が画面にハリを持たせています。2種類のモチーフでも、構成の仕方次第でリズム感やストーリ性まで演出できるのは正に絵画(デザイン)センスなのだと思います。余談ですが、モチーフの素材が気になりました。林檎が樹脂系で鹿は木製なのでしょうか?また、サイズなどお尋ねしてみたいと思いました。展示、座談会の件はちょっと残念でしたね。今回2点出品でしたが、廣岡ワールドを堪能せていただきました。

作品名

題名「はじめからわかっている」
氏名:小林保男
P10

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

本を持つ女性が入口の扉にもたれかかり、物思いにふけっている表情をしている。背景には人物が反対側の入口から入ってきているようだ。一枚の絵の中でストーリーを感じる。作品の中にドラマを入れる事は賛否両論ありますが、私は一つの表現としてアリだと思います。それよりも気になるのは、手前の人物と奥の人物の表現の違いです。確かに手前にピントを合わせて奥をぼかす手法は有りますが、この作品の場合は表現そのものが違うので、別の作品が背景にあるように見えます。(背景の人物がデフォルメされていたり、色が手前と違ったり、人物や扉は、ピントはぼかしていますが、椅子や人物の足元の敷居のピントがあっているなど)空間意識がぎくしゃくしています。世界観が違うということですね。実験だったのかもしれませんが、やはり、一枚の絵の中に収めるには、統一感が必要だと思います。描きたい世界がある事はとても良い事だと思います。今後を期待する作品です。

島村信之

島村信之先生よりコメント

小林さんの作品はストーリー仕立てのもので、前方の主役であるモデルと背後の人物のいる室内空間との対比構成になっています。描画はとても丁寧にされていて絵作りに真剣に向き合っていることが伝わります。手前側と背後の描き方が違うのは、主役女性の心象的な場面を表現しているのでしょうか。ヒールを履いて乳児を抱く母親らしき人物像が逆光の室内空間に居ります。仕事を持っている母親と娘との間にある心情の経緯を表現したかったのか、想像を巡らせる何かメッセージが盛り込まれています。主役が抱える本の意味など、作者に聞いてみたいところです。いずれにしても、小林さんが作品にしっかりと物語を取り入れ、モデルを使い演出するというプロセスで臨まれたという点は、大変素晴らしいと思います。一方、私が気になった点は、同一画面上で異なる描き方をしていること。青い色の使われ方や主役の顔の横に複雑な形、光等の状況を重ねていることなどがあります。意外と面で捉えるなどシンプルにされた方が手前の人物が見やすくなると思います。また、同一画面で描き方を変えるのならば、例えば、壁にかけられた絵画や鏡の中などで切り替えた方が自然だったかもしれません。手前人物に前方と後方から光があたる設定は難しかったと思います。主役のすてきな女性がもの憂い表情で立っている状況はとても感じが良いと思うのですが、形や質感の捉え方等のデッサン力があまいところがありますので、その点は課題かと思います。スナップ写真的な絵や作家個性の弱い作品に比べ、ストリー仕立ての絵作りに向き合った点は、高く評価いたします。

作品名

題名「筆を持つ自画像」
氏名:堀口裕
M20

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

正面を向いて赤い絵の具のついた筆を持っている自画像、写真に頼らずに光の当たっている顔のあたりは何度も絵具を重ねてトーンを整えていますが、陰の部分全範囲ですが(特に体の部分)形になっていませんね。レンブラントなどは一見、大雑把に省略している様に見えますが、明るい箇所などデッサン力に裏付けられた質感や存在感があり省略の箇所が目立たないようになっています。また、背景に塗った絵具が壁なら壁の質になるといいですね。あなたの場合は、デッサン力と、人体の構造的な理解(解剖学的な)を磨くと良いと思います。

島村信之

島村信之先生よりコメント

今回、ご出品くださりありがとうございます。この作品はご自身と正面から向き合い、その真の姿を写し切ろうと挑戦されたものだと思います。配色や光の当て方などから、巨匠 レンブランドを想起させるものがあります。画面上の頭部と筆の描き込みが際立ち、鑑賞者の視線はそこに集中します。さらに中心部で真正面から画家の視線が鑑賞者を直視しているので、残念なことに作品に対面した者にとっては、どこか息苦しさを感じてしまうのではないでしょうか。それは作者が強く意図した構図なのだと思いますが、やはり動きが止まり硬く見えてしまいます。それを防ぐために私は微妙な変化があっても良かったかと思います。描画に関しては、形や光をしっかり捉えようとしていて、頭部は良く描けていると思います。手や首から肩口に近い所ののデッサンは少し単純で不自然です。胸元の形の説明はもう少しあっても良いと思います。それと髪の毛の描き方が部分的、あるいは表層的で違和感がありますので、大きく捉えた方が良いでしょう。鉛筆、木炭デッサンが上達の早道だと思います。

作品名

題名「いつか」
氏名:江本多華子
2 

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

熊のぬいぐるみと玩具のトラックを225×240という小さいサイズの中に描いています。シナベニアにおそらくローラーで付けた下地が程よく描写を邪魔していません。熊の質感や立体感も良く描けています。壁の色合いも上手く整えています。惜しいのは手前のトラックです。熊の毛並みの質感が描写に合って中々の腕前だと思いますが、トラックの描写が甘いですね。プロポーションも屋根の形のパースが逆になっています。後輪の形とボンネットと荷台の角度などにも違和感があります。今回、小さいサイズの作品ですが、大きめの作品も拝見してみたいと思いました。

島村信之

島村信之先生よりコメント

初めまして、江本様。この度はコンクールへのご出品をいただき、誠にありがとうございました。作品内容は、熊のぬいぐるみと真っ黒な旧式トラックのおもちゃを描いた静物画。モチーフを見ながら本物に迫るべく、とても忠実に描かれた作品だと思います。油絵を描き慣れていて、情感のこもる深い味わいまで表現されていて描写力も高いです。とても油絵らしい筆致で完成度の高い作品だと思います。僭越ながら、これまで審査を多くされていた立場から、私が審査をさせていただくと言う立場になり、その優劣の判断は複合的な観点から決められるものだと理解いたしました。絵画は技術と思考の両軸がバランスよくあることが大切だと言うこと。その考え方において、江本さんの作品は、特に内容がオーソドックスで、新鮮なところがあまりなかったと言うのがコンクールにおいての弱さとなります。技術レベルが高いだけに、その点が惜しまれるところです。同じモチーフでも、見せ方を変えることで新しさを感じさせることができると思いますので、その点をご理解いただき、また挑戦してみてください。

作品名

題名「BEING Ⅰ」
氏名:徳永裕太
F20 

大畑稔浩

大畑稔浩先生よりコメント

おそらくは、自画像だと思います。太陽を背に向けて川辺の風景を背景に人物を配置した作品です。人物の描写、特に肌の描画のニキビのあとでしょうか?赤みのある質感はなかなか良く観察しています。髪の毛の濡れたような不思議な形ですが、頭部の回り込みも感じられてよいと思います。この作品の問題は、背景と人物の表現が違う事でしょう。人物の繊細さに比べて、背景の筆致や描画全てにおいて、違う人が描いたような表現で違和感があります。また、設定上、背景に強い光があると手前の人物はシルエットになります。惜しいですね。とはいえ、まだ若さを感じられ今後の可能性を秘めている作品だと思います。

島村信之

島村信之先生よりコメント

初めまして徳永様。ご出品くださり誠にありがとうございます。作品「BEING」はご自身を描かれたものかと推察致しますが、とても良い作品ですね。特に頭部の描き方や表情は生き生きとしていて、画力の伸び代を感じさせるものがあります。構図も人物を片側に寄せて、情景を上手く配置しながら動きのあるものになっています。色彩も収まり良く爽やかです。絵を作るセンスの良さを感じます。残念なのは、背景の描き込みが途中なのか意図したものなのかわかりませんが、荒すぎます。そこがよく描けていたならと惜しまれる作品です。折角、顔がよく描けているので、肌の色味などを更に自然な落ち着きあるものにするコツをお伝えいたします。この人物の髪の毛の生え際や首、あご周りなど赤み(朱)が少し強いので、青みをグレーズすると程よく収まり自然な肌の色に近づきます。逆に肌の色と接触しているマフラーには反射による肌の色の影響があります。写真などを使っても、そのままでは不自然になることが多いので、現実の状態に気づく目を養う必要があります。今後の上達がとても期待できます。

審査員

大畑稔浩

大畑稔浩
Ohata Toshihiro

仰光・霞ヶ浦

仰光・霞ヶ浦

気配:冬

気配:冬

1960 島根県益田市生まれ
1988 第64回「白日会展」初出品 白日賞、文部大臣奨励賞(他、T賞 丸沼芸術の森賞 内閣総理大臣賞)
1990 東京藝術大学大学院油画技法材料研究室修了
1994 「美しすぎる嘘 現代リアリズム絵画展」(三越 日本橋97,00)
1996 現代写実絵画研究所発足 事務局担当
〔創設メンバー 野田弘志、沢田満春、磯江毅、小川泰弘、芳川誠、大畑稔浩 のちに小尾修、五味文彦、諏訪敦も参加(敬称略)〕
宮尾登美子氏原作 新聞小説「天涯の花」挿絵担当
現代リアリズムでの招待展(韓国 ポスコギャラリー)
1997 TIAF東京国際アートフェスティバルにて2人展」(東京国際フォーラム)
2000 島市立大学芸術学部 非常勤講師(~’04)
2001 畑稔浩展(呉市立美術館主催)
2002 特別展「写実・レアリスム絵画の現在展」(奈良県立美術館主催)
「ポン・デ・ザール展」(大阪 画廊大千)(以後毎年)
2003 「存在の美学」現代写実絵画研究所同人展(高島屋 日本橋他4店舗)(’05)
「ヴォアール展」(日本橋 春風洞画廊)(~’15)
2005 「両洋の眼展」(三越 日本橋他巡回)(’07,’08,’09)
宮尾登美子氏エッセイ「みつめる昭和80年」挿絵担当(毎日新聞)(~’08)
2006 東京藝術大学絵画科油画技法材料研究室 非常勤講師(~’08)
2009 「ざ・てわざ展-未踏への具象展」 発起人 事務局担当(三越 日本橋)(’12,’16)
2010 ホキ美術館開館記念展」―私の代表作―出品 (‘13,’17)(ホキ美術館)
島村信之

島村信之
Shimamura Nobuyuki

仰光・霞ヶ浦

水際

気配:冬

1965 埼玉県生まれ
1991 武蔵野美術大学大学院絵画研究科修了
第67回 白日会展に初出品 初入選(以後2005年まで出品)
1992 第68回 白日会展にて白日賞を受賞
(他 T賞 U賞 三洋美術奨励賞 文部科学大臣奨励賞を受賞)
スカラベ二人展(あかね画廊)同’93年 ’96年に個展
1997 個展(銀座柳画廊)同’02年 ’11年
第1回 ヴワール展(春風堂画廊)以後’15年まで出品
2002 東日本の美-山-展出品(東京ステーションギャラリー)
2003 第1回 ポン・デザール展(画廊大千)以後’14年まで出品
2006 三人展ー生島浩 石黒賢一郎 島村信之(春風堂画廊)
第1回 水無月会(相模屋美術店)以後’12年まで隔年で出品
2007 第7回 前田寛治大賞展 大賞受賞(倉吉博物館 )
第7回 伝統からの創造 21世紀展(五都美術商連合会)以後毎年
2009 ざ・てわざー未踏への具象ー展(日本橋三越)同’12年
ホキ美術館開館 ー私の代表作ー出品 同’13年 ’17年
2011 島村信之画集出版(求龍堂)
2012 アート台北出品(Gallery Suchiより)
2015 3つの個性ー表現の可能性を探るー五味文彦、大畑稔浩、島村信之展
(ホキ美術館企画展)11月~’16年5月
2016 銀の雫ー序(靖山画廊)
2018 「ホキ美術館の日本人作家たち展」6点出品(ヨーロッパ近代美術館MEAM スペイン バルセロナ 9月)
現在 神奈川県在住

部門

● 一般部門
● 学生部門【大学生(浪人生含む)、高校生、中学生、小学生】

応募資格

どなたでもご参加できます。国籍、年齢不問。

応募要項

  • 素材は、油彩、テンペラ(混合技法可)とし、アクリル、水彩は不可とします。
  • サイズはS20号以内(727x727)であれば大きさは自由です。厚み(奥行)10cmまで
  • 額装をつけて作品を提出して下さい。※仮額でも可。額はマット合わせて幅10cm以内とします。
  • 規定より大きな作品は審査対象外となります。
  • 乾かした状態で提出する事、立体作品、映像作品、コラージュ等は不可。
  • 応募者本人が作成した作品であること、ほかの公募展に出品していないものに限ります。

表彰

表彰状
一定の基準を満たした入選作品をK国際コンクールが買い上げます。

スケジュール

● コンクールの流れ

  1. 期限中までに下記フォームより申し込み、または申込書を郵送後、参加費を下記振込先にお振込み下さい。
  2. 作品の裏、右上の見やすいところに、「お名前」「題名」をお書きの上郵送、または事務局にまで搬入下さい。
  3. 結果発表はこちらのホームページの「受賞者」のページから行います。選外の方は搬出願います。
  4. 全作品搬出

    お引き取り可能時間 平日10:00~17:00

    委託搬出をご希望の場合は手数料5,000円+梱包費、送料(着払い)をご負担頂きます。

申込 2020年7月31日(金)必着
搬入 2020年8月3日(月)~8月7日(金)
結果発表
2020年8月26日(水)
搬出
2020年9月16日(水)以降

出品手数料

● 一般 1作品 5,000円、2点目以降1点につき+3,000円
● 学生 1作品 4,000円、2点目以降1点につき+2,000円

何作品でも応募可能。(選外の方の展示は行いません。ご了承下さいませ。)

申し込み

下記のフォームよりお申し込みください。

■出品手数料振込先
振り込み金額はお間違いの無いよう、ご注意ください。

ゆうちょ銀行
[口座記号] 10140
[口座番号] 75866081
[受取名義] ケーカイガコンクール

※他行から振込む場合
[店名] 〇一八(ゼロイチハチ)
[店番] 018
[預金種目] 普通預金
[口座番号] 7586608
[受取名義] ケーカイガコンクール

その他

  • HPが最新の情報です。必ずHPをご確認下さい。
  • 応募作品の著作権は応募者に帰属致しますが、作品の発表および、広告・ホームページなどへの掲載や出版などを行います。掲載を望まれない方は申し込み時にご報告願います。
  • K国際コンクールが買い上げた作品は広報を目的とした撮影及びHPなどへの掲載、図録の発行などを自由に行う事が出来るものとします。
  • また撮影画像及び展示会図録などの著作権は全てK国際コンクールに帰属します。
  • 作品の損傷などにおきましてはいかなる場合もK国際コンクールは一切その責任を負いません。
  • 搬入、搬出の費用については、梱包費、運搬費、保険料全て出品者負担となります。

搬入/搬出

〒103-0014 東京都中央区日本橋蛎殻町1丁目30-11 ヨートービル 3F